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東京高等裁判所 平成4年(ネ)3104号 判決 1993年5月31日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

(主位的請求)

1 被控訴人らは、原判決別紙物件目録記載五の建物の西側ベランダ二三か所に原判決別紙施工図に従つて、それぞれ目隠しを設置せよ。

2 被控訴人株式会社清水不動産及び同株式会社松尾工務店は、控訴人に対し、各自金一〇〇万円及びこれに対する平成元年四月二〇日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

1 被控訴人らは、控訴人に対し、各自金七六三万一七〇〇円及びこれに対する被控訴人株式会社清水不動産及び同ダイア建設株式会社は平成二年七月一三日から、同株式会社松尾工務店は同月一四日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 主位的請求の2と同じ(但し、遅延損害金の起算日は右1と同じ)。

3 仮執行の宣言

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

次のとおり訂正付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決三枚目裏七行目の「請求した事案である。」を「請求し、原判決が、そのすべてを棄却したので、控訴人が控訴し、当審において、新たに契約に基づく目隠し設置が認められないときのために、民法二三五条に基づくその設置の請求を追加した事案である。」と改める。

2  同一一行目「物」の次に「(以下「控訴人建物」という。)」を加える。

3  同五枚目表七行目末尾の次に「控訴人は、民法二三五条に基づいて目隠しの設置を請求できるか。」を加える。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正付加するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」の一、二に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決五枚目裏四行目の「(目隠し設置契約の成否について)」を「のうち目隠し設置契約の成否について」と改める。

2  同一〇枚目表七行目の「右」から同裏四行目末尾までを次のとおり改める。

「前記争いのない事実等及び右2で認定した事実によれば、以下のように考えられる。

被控訴人両名側は、懸案の目隠しについては、協定書上ではさしあたり設置することを約するに止め、その構造・機器・設置場所等の具体的事項については付属の確約書に基づき協定締結後詰めることとする意思でこれに副う本件工事協定書三部にそれぞれ記名押印をして控訴人に交付し、もつて本件工事協定書に基づく工事協定(以下「本件工事協定」という。)締結の申込をしたと認められるのに対し、控訴人側では、あくまで本件工事協定書上で右具体的事項を確定することに固執し、それまでは協定自体を締結しないとの態度をとり、昭和六二年一二月二五日まではこれに調印せず、同日ころ調印したといつても、同日の協議で右具体的事項が確定することを予想して右確定時被控訴人両名に交付できるよう内部的に用意したに過ぎず、結局右確定に至らなかつた。その後も、控訴人は、被控訴人両名分を交付することなく、控訴人の元に留保していた。以上によれば、控訴人は、被控訴人両名の本件工事協定書に基づく本件工事協定締結の申込を拒否して承諾せず、その結果、本件工事協定は控訴人が求めた方式では勿論のこと、控訴人両名が求めた方式によつても、全体としても、また目隠し設置に関する部分にしても成立しなかつたものといわざるを得ない。」

3  同一〇枚目裏九行目の「原告は、」から同一一枚目裏六行目の「ない。」までを次のとおり改める。

「証人田口喜三治の証言中には、被控訴人側で控訴人側との約束で履行していないのは目隠しだけであるとの本件工事協定の成立を前提とするような部分もあるが、そのように解する合理性はなく、前記本件工事協定締結を巡る交渉の経過に即してみれば、本件工事協定に盛り込まれるべき事項が交渉の経過の中で事実上実現しただけのことであると認められる。

また、前記のとおり、控訴人は、昭和六三年七月被控訴人両名に対し、本件工事協定書を送付しているのであるが、被控訴人建物竣工後で入居が開始しているという時点で本件訴訟代理人の指示によりなされたという右送付の経緯によれば、これには本件工事協定書に基づく本件工事協定の承諾としての本来的意味はなく、単に事後処理としての意味があるに過ぎないものと考えられる。」

4  同一一枚目裏九行目末尾の次に行を改めて、次のとおり加える。

「二 争点1のうち民法二三五条の適用の有無について

民法二三五条により目隠し設置義務を負う者とは、境界線より一メートル未満の距離において他人の宅地を観望すべき窓又は縁側を設ける者であるところ、相隣関係を規定する本条の趣旨とするところは、所定の至近距離に設置される窓又は縁側から隣地を覗かれることにより害されるおそれのある隣地居住者の私生活上の平穏(プライバシー)を、その設置者に目隠し設置の義務を負わせることにより保護しようとするところにあると解せられるから、同条にいう宅地とは人が住居として使用する建物の敷地をいい、工場、倉庫、事務所に使用されている建物の敷地等は右宅地に含まれないものと解するのが相当である。《証拠略》によれば、控訴人土地上の控訴人建物は、登記簿上の種類は事務所・倉庫であり、現実にも製品生地及び製品の保管、検反作業、外国から訪れたデザイナー等の配色作業場所として、又は本社機能を有する事務所として、恒常的に使用されていることが認められるから、控訴人土地は、人の住居用建物の敷地ではなく、同条の宅地に当たらないことが明らかである。したがつて、控訴人土地につき同条の適用を問題とする余地はない。のみならず、控訴人が被控訴人らに対し、目隠しの設置を求める趣旨とするところは、控訴人建物には外国からの顧客も多数来訪があり、被控訴人建物の居住者の乾す下着類の洗濯物が目障りであるとの主張にも基づくものであるが、このように隣地の所有者に人の下着を見えないようにするための目隠しは同条の関知するところではない。」

5  同一一枚目裏一〇行目の「二」を「三」と改める。

6  同一三枚目表九行目の「旨の」を「かに理解しうる」と改める。

以上のとおりであつて、控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却すべきものである。

よつて、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 矢崎正彦 裁判官 水谷正俊)

《当事者》

控訴人 新和産業株式会社

右代表者代表取締役 岡田美代子

右訴訟代理人弁護士 加藤 徹

被控訴人 株式会社 清水不動産

右代表者代表取締役 清水之男

右訴訟代理人弁護士 遠藤隆也

被控訴人 株式会社 松尾工務店

右代表者代表取締役 松尾助右衛門

右訴訟代理人弁護士 宮沢廣幸 同 清水規廣

被控訴人 ダイア建設株式会社

右代表者代表取締役 下津寛徳

右訴訟代理人弁護士 池田裕道 同 五十嵐公靖 同 渡辺 孝

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